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なんだか気分が落ち込んでしまったすずは俯いて、黙り込む。
雨が傘に当たる。
その音がひどく大きく聞こえて、心臓に響いた。
胸が痛い。
「……オレはずっと一人でさ。ガキの頃から……」
不意に聞こえてきた彼の言葉に、顔を上げる。
首を傾げながら、胸の内に生まれた疑問をぶつけた。
「でも、妹は? 仲良しだったんでしょ?」
「…………」
ユーリは黙ったまま自分の名の、隣の文字を指先で撫でた。
(伊良……ひめゆり?)
ユーリが撫でた文字をすずは読み、更に首を傾げた。
一体誰なのだろう。
「姫とは、仲良かったよ。いつも犬みてぇにくっついて来てな。優しいやつだった」
「……だった?」
「ああ。姫は八年前に殺された。今日が、一応誕生日でさ」
ユーリは寂しく笑って、ひめゆりの字を何度も撫でた。
いつもの、どこか怖い顔つきがひどく穏やかだ。
写真の彼と変わらない。
「……オレは今でも姫を殺した奴らを許さねぇ。なんで姫が死ななきゃいけなかったんだよ……」
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