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ニッと歯を見せて悪戯小僧のように笑ったユーリを見て、すずも自然と笑顔になる。
そして可愛らしく、ありがとうと言った。
それから少し静かな時間が過ぎて、不意にユーリがキセルを片しながら彼女に聞いた。
「……なあ、すず。お前、ママのことなんにも覚えてねぇの?」
「うん、なんにも。声も顔も、すずになにしてくれたかも……なにも覚えてない。知らないの」
「生まれた時にどっか行っちまったなら、それが普通か」
ユーリは一息つくと意味もなく辺りを見渡して伸びをし、体を後ろに倒した。
畳の上に寝転んでなにもない天井を見上げる。
「E地区はハズレだったな。あと考えられるのは……」
小さく言って、彼はぼーっとしたまま考え込む。
すずはそんな彼を見下ろしていたが、暇になって再び窓から外を眺めていた。
雨は相変わらず、空からいくつも落ちてくる。
「ライラックに問い合わせりゃあ一発なんだがな」
「え? それはヤダよ。捕まっちゃうし」
「だよな~」
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