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見事に自分達の部屋以外印がついて埋まっている。
自分達の部屋に予約が入らなかったのはとんだ幸運だ。
「じゃあ、三日分でよろしければ前払いでお願いします」
「はいはい」
ユーリは頷いて銭を出して彼に渡した。
彼は手渡されたお金を数えて納得し、再び帳簿を自分の方に向けてサインした。
「ではごゆっくりどうぞ」
「サンキュー」
ユーリは言って、階段を登り、部屋に戻る。
ちょうどすずが風呂から上がったようだ。
石鹸の良い香が部屋に漂っている。
ユーリはドアの鍵を閉め、窓から外を眺めながらキセルに火を付けた。
石鹸の香が鼻腔から消え去り、特有の匂いが体の中に流れ込んで来る。
「ふぅ……」
白い煙を吐きながら、ユーリは考える。
祭なんてあっただろうか。
ひめゆりの命日には必ずこちらに帰っていたが、有名で大きな祭があったことは知らなかった。
まあ、季節が違うが。
この辺りに住んでいた頃に祭があった覚えもない。
「…………」
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