蝶は花を求めて

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そして二人は、人の波と苦戦しながら宿に戻った。 「あれ? お客さんもう帰って来たんですか?」 背中からすずを降ろしているユーリに気付いた宿の者が呆れたように言う。 「夕方になったら人が多過ぎて歩けねぇだろ。別にオレ、祭好きじゃねぇし」 「はぁ、珍しい人ですなぁ。まあ、一番の興は花火ですし。お兄さんの部屋から見える花火は別格ですよ。雨が止んだらの話ですがね」 聞いたすずは花火? と首を傾げ、ユーリはへぇ、と素っ気なく言って二階に上がった。 すずもパタパタと彼を追い掛けて部屋に入る。 入って、ユーリはいつものように着物を脱ぎ捨てて一息つき、畳に腰を降ろした。 すずは買ってもらったリンゴ飴と金魚を机に置き、金魚の方をじっと見つめた。 水色の中をユラユラと揺れるように泳ぎ回る赤い金魚。 どこかすずに似ている。 「このきんぎょ、不思議だねぇ。生きてるの?」 「厳密には生きてねぇな。金魚に特別な薬入れて、ロボットみたいにして半永久的に泳がせてんだよ」 「ふぅん。……ちょっと可愛そう。でも綺麗で可愛い」
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