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十分ほど、お互いが全く口を開かない静かな時間が流れて行った。
と、階段を登って来る音が聞こえたかと思うと部屋のドアをノックされ、ユーリは立ち上がった。
誰かと不思議に思いながら一応ドアを開けずに返事をしてみる。
「はい?」
「ああ、すいやせん、兄さん。あっしです」
「……ああ、宿の。なんの用?」
相手が宿の主人だと分かると、静かにドアを開ける。
廊下に立っていたのは声の持ち主である宿の主人で、彼は少し申し訳なさそうに愛想笑いを浮かべていた。
「あ~、いやね。あっしら今から祭に出掛けるとこでして。一応、宿にいる兄さんに声を掛けて置こうと思いまして」
「なに、宿の人間が宿を留守にすんのか? で、留守番しろと?」
「まあ、そういうことですわ。兄さん達はもう出掛けるつもりが無さそうだって聞いたもんで」
ハハハ、と主人が笑うと、ちょうど死角で見えなかったところから他の従業員がペコペコと頭を下げた。
「別に構わねぇけど、オレ用心棒でもなんでもねぇからな」
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