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「すず?」
「そ。鈴蘭って呼びにくいんだよ。勝手に略させてもらった」
クロユリはそう言うとキセルをしまい、欠伸をして目を閉じた。
「……研究所から、逃げたから」
「なんで研究所にいたんだ?」
「生まれた時からずっと。パパが、すずは絶対に外に出ちゃダメって言うから……嫌になって……」
ふぅん、と呟いてクロユリは目を開けた。
「パパって研究員?」
「多分。よく、わかんないけど……」
「そっか。要は、家出したって訳だな。八歳のくせに」
うん、と小さく頷いて、鈴蘭は俯いた。
よく見ると髪はバサバサだし、顔も汚れている。
「……おい、すず。ちょっとこっち来い」
「?」
言われて鈴蘭は素直に、一度椅子から降りてクロユリの隣に行く。
ちょこんと座って、彼を見上げた。
クロユリはそんな彼女の顔を自分のハンカチで拭ってやる。
しかし上手く汚れが取れず、初めから机に置いてあったコップの水でハンカチを濡らしてもう一度拭く。
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