蝶は花を求めて

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意地悪い笑顔で自分を見下ろしているユーリの太股辺りを叩いて頬を膨らませ、すずは歩き出した。 「すず、お外は初めてって言ったのに……」 ちょこちょこと、キョロキョロ辺りを見渡しながら歩くすず。 とても小さい背中だ。 全く頼りない。 しばらく通りを無言で歩く二人。 すれ違う人々がとてつもなく不審な目でユーリを見つめて行く。 「……ふぅ」 その視線に嫌気がさしたユーリはいつもより多く息を吸って、それをため息のように吐き出した。 と、遠くから何か声が聞こえてきた気がして、ユーリは耳を澄ませる。 元々喧騒の少ない通りだが、やはり様々な物音がする。 そこから聞こえて来たのはこんな会話だった。 「……こんな少女を見なかったか? 黒髪に赤い着物を着ている少女だ。シャガ研究所から脱走したんだ」 「さぁ……でもさっきお父さんと買物に来てた女の子が、その娘に似てた気がするねぇ……」 「父親? なら、違うな。もし見かけたら、この番号に連絡をしてくれ。匿ったり、嘘をついたりすれば犯罪者として逮捕されるからな。いいな」
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