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まだぽたぽたと髪から雫が落ちている。
彼女の右手首には今日買ったヘアゴムがあった。
まだ夕方の早い時間。
この時間に風呂に入るのはもったいない気がするが、こんな日があっても良いだろう。
蜩が悲しげに鳴いている。
低い太陽が部屋に差し込む。
「…………」
ユーリはその光景の中にいるすずをちらりと伺って、キセルを片付けると立ち上がった。
それに気付いたすずが彼を見上げ、問う。
「あれ? どこ行くの?」
「風呂」
短く答えられて、すずは仰天する。
「えぇ? お話は? してくれるって言ったじゃん!」
「上がったらな。浴室に鏡あったか?」
「嘘つき! ナルシスト! 知らない、教えてあげないし!!」
プン、とまた顔を背けてすずは乱暴に髪を拭く。
ユーリは苦笑しながら包帯を手にとって浴室に向かった。
浴室もそれほど悪くはなかった。
脱衣所にはちゃんと鏡もある。
と、床に自分に負けないくらい雑に置かれた真っ赤な着物を見て苦笑する。
それを畳んでやってから、彼は洗面台に包帯を置き、ネックレスもその隣に置く。
そして顔に巻いてある包帯を外し、服を脱いで風呂場に入った。
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