蝶は花を求めて

46/184

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/184ページ
「もう十時半だよ? お昼になっちゃう」 そう言われたユーリはまだ耳鳴りが続いている左耳に手をやって目を閉じた。 「まだ十時半の間違いだろ? んなことで起こすなよ……」 言って、また寝転ぶ。 言われたすずは眉根を寄せて彼を睨み下ろした。 ぷぅ、と頬を膨らませて、勝手に彼の着物に手を突っ込んで櫛を取り出し、浴室に行ってしまった。 ユーリは布団の上で伸びをすると、自分で時計を確認して今が十時半だと確かめる。 十時半。 最近では一番の早起きだ。 ユーリは眠たそうにしたまま体を起こして立ち上がると欠伸をして、顔を洗う為に浴室に向かった。 「わっ!? なに!? 今、すずが鏡使ってるし!」 「なんだ、お前いたのか。って、勝手に櫛使うなよ」 ユーリが呆れながら言うと、すずは鏡に写ったユーリから視線を外して彼の言葉を無視し、髪を梳く。 「自分で結べんのか?」 洗面台の真ん中を陣取っているすずの体を押して、蛇口を捻る。 簡単に場所を取られてしまったすずはもちろん怒って、ポカポカと彼の背中を叩く。
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加