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一人になったすずはむくれてユーリの背中を睨んでいたが、いなくなってしまうと再び髪を梳き出した。
ギリギリ肩に付くか付かないかくらいの長さしかないが、ボリュームがある。
自分でも髪を梳くのが大変だ。
何回も何回も腕を上下に動かして、納得出来る見た目になった時笑顔になって浴室を出た。
しかしその笑顔もすぐに曇る。
「もう。また吸ってる。ヤダって言ってるのに……」
「……窓開けて、外に向かって吸ってんだから許せよ」
ふぅ、と息を吐いて、ユーリは外を見つめた。
前の宿とは違い、見晴らしが良い。
「はい、これ。ありがとう。勝手に使ってゴメンね」
感情のこもっていない口調ですずは言って、彼に櫛を手渡した。
受けとったユーリは頷いて、またキセルをくわえる。
すずは昨日自分が座った座布団に腰を降ろして、机に寝そべった。
「……ねぇ、ユーリ?」
「んぁ?」
「……今日も、髪の毛結んでくれる?」
少しオドオドしながらすずが言うと、ユーリは二回煙を吐いてから火を消して立ち上がった。
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