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「……ん、兄ちゃん、お兄ちゃん!」
「……っ、んあ?」
突然眠りの世界から引きずり下ろされた青年は、はっきりしない視界の中にいる女性を見上げた。
「あんた、いつまで寝てんだい!? 早く起きてくれないと、宿賃二日分払ってもらうよ!」
「………………」
女性の言っていることが理解出来ず、青年はガリガリと頭を掻く。
大口を開けて欠伸をし、あぁ、と言って手を叩いた。
「悪ぃ、夢見てたもんでよ。……今何時?」
「もう十一時半だよ。さっさと出てもらわないと、こっちも困るんだよ」
若かった頃は美人であったであろう中年の女将はそう言って、青年を睨み降ろした。
青年は布団の上に胡座を掻いて、まだはっきりと覚醒していない頭のまま数回頷く。
「……ん、わかった。わかったよ。でももうちょい待ってくんねぇ? いろいろ準備もあるしさ」
「十二時過ぎたら、二日分払ってもらうからね」
「了解。で、この宿これオッケー?」
タバコを吸う仕草に女将は明らかに嫌な顔をする。
ダメか、と思ったが、帰ってきた答えはまさかの良いものであった。
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