蝶は花を求めて

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「いいよ、それであんたの準備が早く整うならね。ただし、窓開けて外に向かってふかしておくれよ」 「へいへい」 女将はため息混じりに息をつくと、呆れた顔をしながら部屋を出て行った。 一人になった青年はゆっくりと立ち上がり、部屋の窓を開けて外を見た。 二階のこの部屋、だが景色は良くない。 細い路地に面したこの窓から見えるのは隣の家屋の壁だ。 「つまんねぇなぁ……」 呟いて、足元に雑に置かれている着物からキセルとライターを取り出す。 口にくわえて、火をつけて息を吸う。 ふぅ、と息を吐けば白い煙が立ち上り、独特の匂いが鼻を突く。 (そういやオレ、なんの夢見てたんだっけ……? ……確か) とまで考えるが、やはり思い出せない。 思い出すのを諦めた彼は、虚ろな目で辛うじて見える空を見上げた。 左目に映る空は、澄んだ水色。 時折流れて来る雲は綿のようだ。 少しの間それを眺め、飽きたところでキセルの火を消し、処理して、ぐぐっと伸びをして深呼吸。 そして部屋の中にある鏡を覗き込んだ。
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