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胸の内を見透かされた気分になったすずはキュッと自分の胸に手を当て、それから駆け足でユーリの傍へ向かった。
そして彼の裾を掴む。
「なぁ、裾掴むの止めてくんない? ズレる」
「い、良いじゃん……。手、繋ぐの恥ずかしいし……」
頬を染めながらすずは言って、裾を掴む手に力をこめた。
「オレは構わないけど?」
ふっと笑って、ユーリは冗談半分に右手をすずの前に差し出した。
彼女はそれを見て少し躊躇った後、その手に自分の手を重ねた。
「おい、マジか……」
「だ、だって平気だって言ったのも、手ぇ出したのもユーリだし!」
カァ、と耳まで赤くしながらすずは言って下を向きながら彼と歩く速さを合わせる。
(これじゃ吸えねぇな……失敗)
ちらっと右の袂に目をやり、後悔してため息をついた。
だがこの感覚、ひどく懐かしい。
周りの視線が少し痛いが、まあいつものことだ。
気にせず、行き先を考えずにただ歩く。
自然が少ないのに蝉の鳴き声が聞こえて来るのが不思議だ。
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