蝶は花を求めて

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「我ながら、顔だけは良い男」 冗談混じりに呟いて、包帯によって隠れている右目に触れた。 「……もうちょいしたらまた巻き直すか。緩んできやがった」 ボソボソと呟いて、彼は二度目の大欠伸をした。 左目の端に溜まった涙を指先で拭い、それから軽くついた寝癖を整える。 切れ長の漆黒の瞳に、少し長めの艶のある髪。 本人も言っていたが、顔だけは良い男である。 身嗜みが何となく整うと、彼はクシャクシャに置かれた着物を取り、今着ている黒いシャツの上に羽織った。 衿は広く開けたままで帯を締める。 左腕は袖に通さず、着物の内に入れて帯の上に乗せた。 キセルは袂に戻し、また小さく欠伸をして一つ頷いた。 「……よし、そろそろ行くか」 結構時間を掛けてしまった気がする。 二日分の宿賃を払うのは気が引けるが、仕方ない。 自業自得だ。 最後にもう一度だけ鏡を覗き込んでから立ち上がって、部屋を出た。 板が張られた廊下を渡り、階段を降り、受付に向かう。 自分を起こした女将がいた。
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