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「もう。ユーリは一日を大事にしようと思わないの?」
細い路地に入りながらすずが言うと、ユーリは一度肩を竦めてから答えた。
「思わないね。どっちかってぇと、早く死にてぇし」
「え?」
「早く死にてぇんだよ。でも自殺は面倒だしな……。意味もなく生きてんだよ」
暗い路地。
その言葉がすずの胸に妙に響いて、彼女は黙り込んでしまった。
ユーリは気にせず足を進める。
歩いて歩いて、見えてきたのは『ここより先D地区なり』と書かれた汚い看板と、薄オレンジ色の明かりだった。
いつの間にか屋内に入ったらしい。
「なに? ここ」
「国公認の娯楽施設。遊郭だ」
「ゆー、かく?」
初めて聞く言葉にすずは首を傾げ、濃くなっていく明かりと聞こえて来る雑音に顔を前に向けた。
更に歩いて、突然とてつもなく大きな通りに出る。
初めてユーリと出会って、路地から出た時の大通りの軽く二倍の幅がある。
「……あ! すず、こういうの知ってる。やだよ、こんなイカガワシイとこ、すず嫌い!」
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