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「……死んだのか?」
「ああ。なんだい、お兄さん。お菊を気に入ってたのかい?」
ユーリはその言葉に首を横に振り、キセルをくわえて遊女に礼を言った。
遊女はツン、と顔を背け、早速他の男に声を掛ける。
ユーリは、どこか寂しそうにして再び遊び部屋を見上げた。
どぎつい遊郭の中で、どこか他とは違う印象を与える外装。
その窓辺には誰もいない。
すずは辺りを見渡して遊女がいないことを確かめると、ユーリを見上げて小さく声を掛けた。
「……ねぇ、菊って誰? ユーリの恋人?」
「だから、オレは結婚しねぇ、っつってんだろ? ……同い年の従姉妹だよ」
「いとこ……」
その答えにすずはハッとして視線を落とした。
ユーリは苦笑してぽんぽんと彼女の頭を叩き、深く息をして歩き出した。
すずも、彼と手を繋いで歩き出す。
その後、二人は細い道から遊郭を出るまで一言も発さなかった。
ようやく口を開いたのは、ユーリの方だった。
「悪かったな。嫌な思いさせちまって」
「ううん。気にしてないし……」
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