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「遊郭なんかに付き合わせたんだ。構わねぇよ。……オレもあそこは嫌いだからな」
言って、なににしようか悩む。
結構腹が空いているが、遊郭の空気に負けたのか濃いものを食べたくない。
「すず、これが良い」
「蕎麦? じゃ、オレもそれにしよ」
食べるものが決まり、店員を呼ぶ。
注文を言って下がって行くと、ユーリは手を拭いて深いため息をつき、椅子の背もたれに寄り掛かった。
すずも彼の真似をして手を拭き、そして上の空でいるユーリを見つめる。
しばらく無言でいて、そしてすずが恐る恐る口を開いた。
「ねぇ、いとこの菊って人……ユーリと仲良しだったの?」
「ん? ……仲良しってか、な。四年前っつってたかな~。誘拐されて、遊郭に売られたんだ。三年前に噂でそれ聞いて、ちょいちょい会ってたんだよ」
「そうなんだ……」
すずは小さく言って、視線を落とした。
誘拐なんてことが実際にあるなんて。
「身内のオレが言うのもなんだけど、綺麗な奴でさ。明るいし。……病弱だったけど、売られなきゃもっと良い人生だったろうな……」
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