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女将は青年の背中を見てから銭を数え、そして慌てたように顔を上げた。
しかし姿はもう無く、女将は銭を持って宿を飛び出した。
左右に視線を向け、そして青年の背中を遠くに見つける。
「ちょっと兄ちゃん!! 宿賃、余分に払ってるよ!」
音の進む速さはさほど早くはない。
二拍ほど置いて、青年は振り返った。
「それ、気分転換させてもらった礼。貰っといてくれ~」
再び右手でキセルをくわえる仕草をして、それから彼はその手をひらひらさせて行ってしまった。
女将はポカンとして、十二時を示すチャイムを聞き流し、再び銭を数えた。
二日分の宿賃。
「……なんだい、まったく。顔だけじゃなく良い男じゃないか」
苦笑混じりに女将はそう言って、彼女は宿に戻って行った。
青年は細い路地から出て、大通りに出た。
カッと照り付ける太陽。
それを目を細めながら見上げる。
「夏か。早いな……」
一つ呟き、頭上を飛行して行った一台の飛空機を追う。
よく見れば一台だけでなく、何十台も飛行している。
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