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「良いよ、買ってやる。大事にしろよ?」
「ほんと? わ~い! ありがとう!」
すずは満面の笑みを浮かべて数回跳ね、着替える為にまた試着室に入った。
ユーリは、ひどい動悸に目眩がして頭を抑えた。
この感覚、自分はどこかで知っている。
だが、思い出せない。
吐き気に堪えながらすずを待ち、彼女が着物姿で出て来ると何故か安堵して落ち着いた。
服を持って、代金を払う。
「あら、妹さんにプレゼント? 優しいお兄さんねぇ」
「まあ……」
ユーリは薄く笑みを浮かべながら、店主の言葉に頷いた。
すずは、極力顔を見られないよう先に外に出した。
買った服を持って店を出て、彼女にそれを手渡す。
「ありがとう、ユーリ。すず、この服宝物にするね!」
「着られんの今だけだろ……」
ユーリはちらりと店を振り返り、赤い暖簾を少し恨めしく思う。
良いことなのだが、ちょっと高かった。
「んじゃ、約束も果たしたし、次は宿探しだな」
「うん!」
すずは上機嫌で返事をして、ユーリと手を繋いだ。
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