蝶は花を求めて

91/184

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/184ページ
「良いよ、買ってやる。大事にしろよ?」 「ほんと? わ~い! ありがとう!」 すずは満面の笑みを浮かべて数回跳ね、着替える為にまた試着室に入った。 ユーリは、ひどい動悸に目眩がして頭を抑えた。 この感覚、自分はどこかで知っている。 だが、思い出せない。 吐き気に堪えながらすずを待ち、彼女が着物姿で出て来ると何故か安堵して落ち着いた。 服を持って、代金を払う。 「あら、妹さんにプレゼント? 優しいお兄さんねぇ」 「まあ……」 ユーリは薄く笑みを浮かべながら、店主の言葉に頷いた。 すずは、極力顔を見られないよう先に外に出した。 買った服を持って店を出て、彼女にそれを手渡す。 「ありがとう、ユーリ。すず、この服宝物にするね!」 「着られんの今だけだろ……」 ユーリはちらりと店を振り返り、赤い暖簾を少し恨めしく思う。 良いことなのだが、ちょっと高かった。 「んじゃ、約束も果たしたし、次は宿探しだな」 「うん!」 すずは上機嫌で返事をして、ユーリと手を繋いだ。
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加