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その日からゆうやは夕方になると出歩かなくなった。また、西の方に用事ができないように気をつけた。それでも学校帰りは必ずキツネの供養をした。キツネが見ているような感じはなかったけども、おばあさんの言葉が忘れられなかった。それにゆうやにとってはもうキツネのことは一生忘れられないことだった。
今日もまた学校帰りにキツネのお墓に寄った。
昨日置いた油揚げがなくなっている。なにか動物が持って行ったのだろう。最近、お供えした油揚げがよくなくなる。ゆうやは別段気にすることもなく手を合わせた。
また買ってこよう。
皿だけが置いてある墓に向かい手を合わせた。
しばらくそんな日が続いたある休みの日。
「新しい自転車だ!」
盗まれてしまった自転車の代わりに両親が新しい自転車を買ってくれた。ゆうやはさっそく乗り、新しい自転車の乗り心地を確かめていた。ゆうやは別段方角を気にすることなく自転車で住宅街を駆けていった。
公園を横切った。
いつもの学校の帰り道を辿り、キツネのお墓に寄り、昨日お供えした油揚げがなくなっていることを確認して、気ままに自転車を走らせた。
前方に曲がり角があった。T字路になっているのだろう。ゆうやは風を切りながら左に曲がろうか右に曲がろうか考えていた。あれ、そういえばこっちは西の方角じゃないか……。
あと数メートル。
「……っ!」
動物が急にゆうやの前を横切った。
ゆうやは急ブレーキをかけて止まった。そして止まると同時に前方のT字路を「ゴ――ッ」とトラックが走り去っていった。
ゆうやの前を横切った動物はキツネだった。キツネはこちらをちらりと見て去った。
そのキツネの口には偶然なのか、油揚げがくわえられていた。
その日以降、お墓には皿がなくなり、ゆうやはお供えをやめた。
学校帰りに寄ることを控え、休日に新しい自転車で立ち寄り、手を合わせるだけにした。
皿がなくなったことで「もういいよ」とキツネが言っているような気がしたのだ。
それからのゆうやは心なしかツイているような気がして毎日が楽しくなった。
ゆうやは油揚げをくわえたキツネのことをたまに思い出してはこう思う。
「ありがとう」
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