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「あるさびれた山村での話です。寒い寒い冬の晩のことでした。こんこんこん……。なにやら戸を叩く音がします。おばあさんは「やれ、こんな晩に誰じゃろうか」と言い、戸をあけました。するとそこには雪にまみれた肌の美しい女が立っていました……」
夏美と春菜はごくりと息をのんで、秋子の話を聞いていた。
毎年恒例の正月お泊り会。三人は怪談話に興じていた。
「あら、もうこんな時間だわ。明日の初詣に遅れないようにしないと」
話が終わるころ三人は夜12時を回った時計を見てそろそろ寝ようか、と電気ストーブを消し、布団に入った。
「今日は除夜の鐘はならないんだっけ」
「1日だけじゃない?」
明かりを消し、三人は頭を突き合わす形になり、話題を見つけてはつらつらと話を続けた。
しばらくして、
「秋子、寝ちゃった?」
「…………」
どうやら怪談話が得意な秋子はしゃべりすぎて疲れていたようだ。一番早くに眠ってしまった。
「夏美、まだ起きてる?」
「うん……。ちょっと眠くなってきたかな」
またしばらくして、
「夏子?」
「…………」
どうやら目が冴えているのは自分だけのようだ。春菜は目を閉じて明日の初詣のことを考えていた。しばらくして考えていることの脈絡がなくなってきて、ああ、夢見心地ってこういう感じだなんだなあと、夢とも空想ともつかない狭間をさまよいはじめ、
ふいに、がくんと身体が揺れた。
びっくりして目が覚めた。夢の中で足を踏み外したような感じだった。踏みとどまったのだろうか。まだしばらくは眠気がくるまで時間がかかりそうだ。
こんこん……。
空耳だろうか。
聞こえた音が本物かどうか判断できなかった。半分ほど眠りに落ちかけている意識は現実を不確かなものに感じさせた。
こんこん……。
まただ。
どこから聞こえてくるのだろう。
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