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「……やあ」
話しかけた。
「なに」
そっけなく返事を返された。
「おばちゃん、いなくなっちゃったんだね」
「……」
返事はなかったので、しばらく一緒に前を見ていた。
夕方になり、黒猫は近くの民家の軒先に消えた。
「ばいばい」と声をかけたが返事はなかった。
次の日、またタバコ屋に行った。
やっぱり黒猫はいた。
「おはよう」
そしてやっぱり前を見ていた。
「店番なんだね」
「……」
返事はなかった。かわりにあくびをした。
昼になりお腹が空いたので近くのスーパーに行った。パンを買って、ついでにツナ缶を買った。
「あげる」
ツナ缶を黒猫の前に差し出した。
反応はなかったが、僕は気にせずにパンを食べた。
しばらくして黒猫も食べ始めた。
夕方になった。
「ありがとう」
黒猫はそう言ってまた昨日と同じく軒先に消えた。
次の日、学校帰りにまた寄った。
黒猫は今日もいた。いつの日もここにいた。
「ごくろうさま」
僕は学校帰り、土日休みの日、いつも黒猫の側にいるようにした。
触りたい、という気持ちはあったが、黒猫をなぐさめるような行為のような気がして我慢した。
そんな日が続き、黒猫はよく話すようになった。
「広路地の北側には教会があるんだが、そこには太った化け猫がいてな。みんな近寄ることができないんだ。だからみんなその場所にはなにか宝があると思っている」
黒猫は饒舌だった。
みんなが話かけていたのもうなずける。もともと人と話すことが好きなのだ。
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