黒猫とタバコ

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「ただの猫のたまり場だったな」 「そうだね。宝がないのが残念だったけど」 「いや、あったさ」 「どこに?」 「人間の女の膝の上」 「なるほど。確かに宝だ。あはは」 二人して笑う。 「なあ、友よ。タバコを吸ってくれないか」 「僕?吸えなくもないけど」 二十歳になって吸えるようにはなったが、別段吸いたいとは思わなかった。 「タバコの匂いが懐かしいんだ」 「わかったよ」 コンビニに寄り、タバコを買った。 タバコ屋の前で吸った。まずくて咳こんだ。 「ははは」 笑われてしまった。 次の日、黒猫はいなくなった。 驚きはしなかった。それから僕はタバコ屋に行かなくなった。教会の裏道の先が記憶にぼんやりと残っている。会いたくなったらきっとまた会える気がした。
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