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慶応4年 10月に成立した蝦夷共和国の陸軍奉公並として、幹部となった土方は、今ここ蝦夷地にて官軍との決戦を控えていた。
ようやく雪が落ち着きを見せはじめた中、二葉ははやる思いを抑えるのに必死だった。
史実であれば、土方が戦死するのは暦の上で5月となっており、あと数ヶ月も残っていない。
蝦夷地は物資に乏しく、兵糧など持ちこたえられる筈もなかった。
榎本武揚は、既に投降する意思を見せ始めた。
これも史実の通りであり、今後この男が新政府の中で活躍していくのかと思うと、二葉にとっては歯痒いばかりであった。
新しい時代が来る。
だが、それの礎となる人々は静かに人生の幕を降ろせるかと言えば大半はそうではない。
坂本龍馬も西郷隆盛も、近藤勇だって晒し首になったのだ。
ぎりりと唇を噛みしめる。
最近、二葉の唇は年頃の女子とは全く異なる様相を見せており、ますます厚く傷跡が耐えなかった。
二葉がリターンしてから歯痒い思いを続けているのは、もうどれほどかわからない。
「私は史実を知っている。それを変えるつもりはない」
一番初めに肝に据えた思い。
揺らぐことは今までなかったというのに、ここに来てからは毎日がその思いとの戦いであった。
それでも、後悔だけはしたくない。
二葉は身を翻すと、消えた影を追って霧の中へと身を投じていた。
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