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「ええ、それでいいのよ、それで…ああ、リン…ごめんなさいね、でもこうするしかないの、こうするしか…」
そっと抱き寄せ、髪を撫でる。
抱きしめる力は時折強くなり、手は震えていた。
「お母…さん?」
母はそう言って泣いていた。
だからこそ訊きたい言葉があった。
「リン…あなたはレンを守ってあげてね、そしてレンに守ってもらいなさい。」
「もう会えないの?」
そう。この言葉。
どうか否定してほしい。
優しくいつものように、『こら、リン。そんな事言わないの。』と。
「リン…さあ、もう行きなさい、時間がないわ。」
顔をクシャクシャにしながらリンの顔を両手で優しく包む。
微笑もうにも上手く表情に出来ず、リンの問いに答えてしまうとこの手を放すことが出来なくなると分かっていた。
だからこそ、答えられずに俯いた。
「嫌だよお母さん!ねえ、もう会えないの?」
「リン…ああ、リン。大好きよ、あなたとレン、私の宝物。あなたたちは私の…いいえ、私たちの光なの。だからちゃんとあなたたちには輝く未来があるわ、道具としてなんて生きさせない、絶対に!だからちゃんと…」
もう少しこの幸せを味わいたかった。
もう少しこの愛を味わいたかった。
もう少しこのまま、いやずっと、あなたたちのぬくもりを感じていたかった。
しかし、ドアを叩く音が現実の非情さを痛感させた。
「シーナさん、ちょっといいかね?」
「ああ、やっぱり…リン、早く裏口から出なさい。」
「お母さん…」
「愛しているわ、いつまでも。」
優しく微笑むその姿はいつも見ていたその姿。
なんでもっと甘えておかなかったのだろうか。
なんでもっと言うことを聞いておかなかったのだろうか。
なんでもっとその姿を見ておかなかったのだろうか…!
「うん…!うん…!!私も愛してる…いつまでも!」
「元気でね…」
その瞳は二人の我が子の幸せを願い、なにも出来ない自分を呪う。
少しでも二人が逃げられる時間を稼がなければ。
それだけが今、母親として出来ることだった。
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