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涙を拭く。
いつまでも泣いていてはいけない。
しっかりしなければ。
「シーナさん?」
コンコンとドアを叩く音が響く。
シーナは鉄の仮面を被り、一世一代の演技を始めた。
「はいはい、なんでしょう?」
「あ、シーナさん、お留守かと思ったわ。あら、お子さんはいないの?」
「うちの子になにかご用ですか?あら、こちらの白い方はどちらさまです?」
隣家のおばさんに返事をしつつ、白ずくめの男に視線を送る。
異質な雰囲気を放つその男に警戒心を見抜かれてはいけない。
「村長が村中の子供を中央広場に集めて欲しいですって。なんでも子供にしか罹らない流行病があって、その検査をするみたいよ?この人は検査していただく人の1人ですって。」
その嘘が本当ならばどれだけ嬉しいことか。
しかし、そのような事態で空中戦艦は不自然過ぎる。
「そうなの?それは大変。でもうちの子、今隣町の親戚のお家にお世話になっているのよね。」
「あら、それで居ないのね。」
「ええ、だからまたの機会にしてもらうわ。」
「そうね、それじゃ…」
「ちょっと待て、そのコップは誰用だ?」
白ずくめの男はテーブル上にコップが2つ置いてある事に気付いた。
そして、家に足を踏み入れた。
「え…ちょっと勝手に入らないで。」
詰めを誤り、男の侵入を許してしまった。
「これは誰用のコップだ、と訊いている。」
コップを手に取り、再度尋ねる。
なにやら確信めいた不敵な笑みも浮かべている。
「それは…」
戸惑うシーナ。
早く何か言わなければ…何か言い訳を…。
しかし、頭が真っ白になってしまってなにも出てこない。
予想外の展開に頭が付いていけていなかった。
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