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「和葉ちゃん、ありがとう。私は、幸せだったよ」
『見えた』あの人は微笑みながらそう、呟いていた。
本当に幸せだったのだろうか、そんなことをふ、と思った。
老人ホームにで働くあたしは、幼い頃からは普通の人は見えないであろうものが見えてしまう。
たぶん、それは、幽霊と呼ばれる類いのもので友達にはよく気味悪がられた。
だけど、両親は気味悪どころか、面白がっていつもどんなだった?とか聞いて来るような変わり者。
あたしの名前だって自分たちが好きな漢字を組み合わせただけって言ってた。
お父さんは普通のサラリーマンだった。
だけど、あたしが3歳のときに突然医者になるって言って大学に通いだしたらしい……。
理由は、人体模型が好きだから。
そして、お母さんはそんな自由なお父さんを陰ながら支える器量の大きい人なんだけど、やっぱり、お父さんと結婚する人、変わり者。
お父さんが好きすぎて娘のあたしのことはあまり関心がない。
お母さんと普通に仲は良いけど、あたしがやることに怒ったり、口を出したりしない。
……というか、あたしは両親に怒られた記憶がない。
何をしても「いいのよ」って。
寂しかった。
怒られたくてしたことでさえなぜか「ごめんね 」って謝る。
なんで、怒らないんだろう。
そんな両親の元で育ったあたしは3年前、福祉短大を卒業し無事に老人施設に就職した。
そして、今大きな壁が目の前に佇んでいる。
「今日は天気が良いね」
やってきた『それ』は、あたしに近付いてきて話しかけてきた。
「……。」
「私が見えているんだろう?
聞こえているんだろう?
少し、話を聞いてくれやしないか」
この人が話しかけてきたことが、あたしの人生を大きく変えたのかもしれない。
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