31. あの頃、思い描いた未来(最終話)

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「僕から逃れられると思うなよ」  今になって彼がラウルに近づいてきたのは、おそらく娘を守るためだろう。異端の外見を持つ彼女が、ラグランジェ家でどういう扱いを受けているかは察しがつく。もしかすると命すら危ういかもしれない。それがわかってしまった以上、そしてその責任が自分にある以上、逃れることなど出来るはずもない。  風が強く吹いた。長い焦茶色の髪が横に大きく流される。  ラウルは鉛のように重たい口を開いた。 「サイファ、今、おまえは幸せなのか」 「これからもっと幸せになるよ」  サイファはその瞳に空を映したまま答えると、さらりと金の髪をなびかせて振り向く。 「あの頃、思い描いた未来を手に入れるんだから」  そのとき彼の見せた眩い笑顔は、澄み渡る青空のように曇りなく、しなやかな風のように力強く、そして、大地に咲き誇るバラのように気高さを感じさせるものだった。まっすぐに未来を見据え、行動し、誰よりもレイチェルを幸せにしようと努力する--そんな彼の行動と信念がそこに表れているのだろう。  多分、ずっと前からわかっていた。  とても、彼には--。  ラウルは立てた膝に腕をのせたまま、果てしなく広がる空を仰いで目を細めると、すぐ隣に立つ凜とした気配を感じながら、そっと瞼を下ろして瞳を閉じた。
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