31. あの頃、思い描いた未来(最終話)

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 会議が終わったあと、ラウルは何年かぶりに外に出た。王宮の外れにある小径を淡々と辿っていく。背後からの喧噪が次第に小さくなり、代わりに、さわさわと葉の擦れる音が降りそそいだ。しばらく歩を進め、蔦の絡みついた煉瓦造りのアーチをくぐると、眼前の視界が一気に開ける。  そこには、果てしなく優しい青空と、色鮮やかなバラ園が広がっていた。  ラウルは引き込まれるように細い坂道を降りていった。隅に佇む大きな木のもとに腰を下ろすと、ざらついた木の幹に体重を預けて目を閉じる。少し湿った土の匂い、ひんやりした木陰の地面、頬に当たる暖かい風、ほのかに甘いバラの匂い--そんなものを感じながら小さく息を吸い込んだ。 「やあ、また会ったな」  頭上から降りかかった声に驚いて目を開くと、そこには笑顔で覗き込むサイファがいた。そよ風にさらさらと揺れる金の髪が、木漏れ日を受けて透き通るように煌めいている。 「おまえ、なぜ……」 「あのあとずっとここで待っていたんだよ。もしかしたらラウルが来るかもしれない、なんてちょっとそんな予感がしてさ。まさか本当に来るとは思わなかったけどね」  サイファは小さく肩を竦めて見せる。  ラウルはうつむいて溜息をついた。 「おまえ、少しは真面目に仕事をしろ」  それを聞いて、サイファは懐かしそうにくすりと笑った。そして、立ったまま背後の木にもたれかかると、腕を組み、遠くの空を見上げて真面目な顔で目を細めた。 「会ったんだろう? レイチェルと娘に」 「……ああ」 「今度、また連れていくよ」  ラウルは何も答えられなかった。風に揺れる薄紅色のバラを眺めて眉を寄せる。 「ねえ、ラウル」  サイファはあらためて切り出した。 「僕は欲しいもののためには手段を選ばない」 「知っている」  ラウルは正面を向いたまま答えた。彼のことは子供の頃から見ているのだ。今さら言われるまでもなく、彼がそういう人間であることは理解していた。そして、これから何を言おうとしているのかも--。
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