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「良かったですね、花さん。ここは優しい人ばかりよ」
白を基調とした清潔感のある小綺麗な部屋。その南側の大きく開いた窓からは、柔らかな日射しが降りそそいでいる。少しひんやりした風が滑り込むと、レースのカーテンがふわりと丸みを帯びるように揺れた。
澪は、窓際の椅子に腰掛ける花に微笑みかける。
彼女は戸惑いがちに小さく微笑み返し、秋らしく色づいた外の風景に目を向けた。
ここは高齢者用の医療介護施設である。
それも、空気がきれいな落ち着ける環境のもと、明るく家庭的な雰囲気で、質の良い介護が受けられるという施設だ。当然ながら相応に高額であり、誰でも気軽に入所できるわけではない。
花は、剛三の援助でここに入所することになった。
画家・天野俊郎の支持者として、その娘の治療を援助させてほしい--身分を隠したまま彼女の息子にそう申し入れると、そちらで全面的に面倒を見るなら好きにしてくれ、という突き放した返答があった。
厄介払いができて清々しているのだろう。
そのことを思うと腹立たしかったが、息子のことを考えても仕方がない。花が心安らかに過ごせることが第一である。彼女にとってはこれが最善なのだと、澪は自分にそう言い聞かせて納得しようとした。
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