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「美咲、そろそろ起きない?」
部屋には、カーテンの隙間から目映い光が射し込んでいた。
大地は自分の胸元で眠る少女にそう囁くと、柔らかい頬にそっと指を滑らせた。彼女は「ん……」と小さな声を漏らし、ぼんやりとベッドから体を起こすものの、深くうつむいたまま固まったようにじっとしている。大地は少し不安になり、起き上がって美咲を覗き込んだ。
「もしかして酔った?」
「ううん、平気、眠いだけ」
美咲は小さく頭を横に振り、顔を上げてにっこりと答えた。大地はその笑顔にほっとし、彼女の頭にぽんと手を置くと、ベッドから降りてカーテンを開いた。シャッ、という軽い音とともに、白い光が溢れ込む。美咲はパァッと顔を輝かせると、素足のまま弾むように窓際に駆けつけた。
「すごい、東京じゃないみたい!」
ガラス窓に張り付いて海を眺める美咲の横顔を、大地は目を細めて見つめた。星空を映した瞳もいいが、キラキラと光る海面を映した瞳もきれいだと思う。
美咲はガラスに手をついたまま振り向いた。
「ね、甲板に出よう?」
「あとでね」
「今すぐ行きたい!」
「それは無理だよ。まずは、顔を洗って服を着替えないと」
「じゃあ、お兄ちゃんも急いで!」
美咲は待ちきれない様子でそう言うと、さらさらの黒髪をなびかせてユニットバスへと駆け込んでいった。
「あ、甲板の前に朝食だからね」
「ええっ?!」
服を脱ぎかけた美咲が、素っ頓狂な声を上げて顔を覗かせる。しかし、不満そうな表情を見せただけで、何も言わずユニットバスへ戻り、いっそう大急ぎで着替えの続きを始めた。
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