238人が本棚に入れています
本棚に追加
別人か--。
彼らの話に耳をそばだてていた誠一は、胸の内で小さく息をついた。
安堵なのか、落胆なのか、それは自分でもよくわからない。
まだ小さな子供だった頃、誠一は『怪盗』の意味もわからないまま、夜を駆け巡る怪盗ファントムに憧れていた。特撮ヒーローでも見るかのような気持ちで--いや、実際に区別がついていなかったのだろう--テレビにその姿が映るたびに釘付けになって目を輝かせていた。
大人になり刑事になった今なら、パフォーマンスに目を惹くものがあっても、結局のところはただの犯罪者であり、憧れる対象でないことは理解している。ただ、幼い頃に抱いていた純粋な感情を、完全に消し去るのは難しい。
「すみません」
誠一は若い制服警官を見つけると、警察手帳を見せて呼び止めた。その彼に事件の顛末を尋ねる。
やはり『湖畔』は怪盗ファントムを名乗る者に盗まれていた。警備に当たっていたのは、民間の警備員と所轄の警官だけで、警視庁の人間はいなかったらしい。しかし、すでに連絡は済ませてあるので、間もなく来るだろうとのことである。
警視庁も信じてはいなかったのだろう。
本当に怪盗ファントムが復活したのかはわからない。しかし、鮮やかな手口で絵画を盗む輩が現れたのは事実である。これから世間が騒がしくなるだろう。あの頃のように--誠一はそんな予感がしていた。
最初のコメントを投稿しよう!