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大地たちは、船内レストランでトーストとベーコンエッグを注文した。
窓際に席を取り、二人で向かい合って座る。テーブルも椅子も何もかもが安っぽく、レストランというより食堂といった方が相応しく思えるが、それでも清々しい陽光と微かな潮風を感じながらの食事は格別である。ひどく空腹だったこともあり、美咲と喋りながらだったが、大地はあっというまに平らげてしまった。
「じゃあお兄ちゃん、外へ行こう?」
大地のプレートが空になったことに気がつくと、美咲は急かすように促して立ち上がった。気持ちはすっかり外に向かっているようだ。しかし、彼女のプレートには、トーストもベーコンエッグもまだ半分ほど残っていた。大地は腰を上げることなく、穏やかな口調で美咲を窘める。
「ダメだよ、美咲、全部食べないと」
「もういい、早く行きたいんだもん」
美咲はテーブルに両手をついたまま、焦れったそうに言う。
「ちゃんと食べないと成長できないよ」
「そんなに大きくならなくてもいいの」
「身長だけじゃなくて、いろんなところがだよ」
「……お兄ちゃんのエッチ」
美咲は非難するようにじとりと睨み、口をとがらせた。頬はほんのりと桜色に染まっている。その様子から、彼女があらぬ誤解をしていることを悟り、大地は思わず肩を竦めて苦笑する。
「真面目に言ってるんだけどね」
「いいもん……子供のままで……」
美咲は急に声を暗く沈ませると、斜め下に視線を落とす。その様子は、拗ねているというよりも、何か深く思いつめているように見えた。大地は理由がわからず当惑したが、それでも彼女を安心させるべく優しく微笑む。
「そんな悲しいこと言わないでよ」
待ってるんだから--。
心の中でそう言葉を繋ぐと、うつむいた美咲の頬に手を伸ばした。
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