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中川館長が美術館に戻ったのを見届けると、誠一はブルゾンのポケットに手を差し入れた。ふうと大きく息をつき、頭上に広がる濃紺色の空を仰ぎ見る。頬を掠める冷たい風が心地良く感じた。
澪とは会えないのに、その祖父に会ってしまうとはな--。
ふと、そんなことを考えて苦笑する。
今日は久しぶりに澪と休日が重なったにもかかわらず、彼女の方に用事があって会えなかったのだ。さっそく「家の事情」と言葉を濁していたので、詳しくは聞いていないが、家族とどこかに出かけるようなことを言っていた。
「…………」
誠一は目を細め、胸ポケットの携帯電話に手を伸ばした。
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