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「あっ」
澪は短く声を上げて、内ポケットから震える携帯電話を取り出した。背面のディスプレイを確認すると、顔をパッと輝かせ、折り畳まれた本体を手早く開いて耳に当てる。
「もしもし、誠一?」
「ちょっと、澪!」
隣の遥がハッとして振り向き、咎めるように名前を呼んだ。眉を寄せて非難の眼差しを向ける。そのことに澪も気づきはしたが、もう電話に出てしまっていたため、とりあえず誠一との会話を優先することにした。
『澪? 何かすごい音がしてるけど……』
「ごめん、いまちょっと移動中なの」
澪たちがいるのはヘリコプターの中である。エンジンやプロペラの回る音がうるさく、それが誠一の方にも届いているのだろう。澪も片耳を押さえないと誠一の声が聞き取れないくらいだ。
「遥も一緒にいるよ。替わろうか?」
『いや、それはいいよ……』
電話の向こうで誠一は苦笑していた。つられて澪も笑う。
「それで、どうしたの?」
『ああ……別に用はないんだけど、澪の声が聞きたくなってな』
「え、そういうの初めてじゃない? 私も誠一の声が聞けて嬉しいけど」
澪の顔は自然とほころんでいた。誠一と会えなくて気が滅入っていたが、声を聞けただけで、そんな寂しさもどこかに吹き飛んでしまう。そして、何より、彼も同じ気持ちでいてくれたことが嬉しかった。
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