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『今日はもう切るよ』
「うん、それじゃあね」
『ああ、またな』
澪はくすっと笑って携帯電話を切ると、それを折り畳んで内ポケットに戻した。このまましばらく余韻に浸っていたい気分だったが、隣の遥がじとりと睨みつけ、現実に引き戻すように重々しく切り出した。
「澪、ケータイ持ってきてたの?」
「作戦遂行中は電源切ってたよ」
「そういう問題じゃない」
彼はいつになく厳しい声でピシャリと言う。
「まず、現場に落としたらシャレにならないってのはわかるよね? それに、ケータイは持ってるだけで居場所の特定ができるから、それで正体がバレる危険性も少なからずあるんだよ。家を出てから帰るまでが作戦遂行中だから気を抜かないで。こんなところで電話に出るなんてもってのほか」
「うん……」
その説明はわかりやすく説得力があり、澪は素直に反省するしかなかった。
遥は窓枠に頬杖をついて外に目を向ける。
「じいさんには内緒にしとく」
「……ありがと、遥」
澪は身をすくませて小さく微笑むと、甘えるように遥の肩に寄りかかった。長い黒髪がさらりと揺れる。彼が振り向くことはなかったが、嫌がることもなく、そのままの姿勢で澪を受け止めていた。
ヘリコプターは夜空を切りながら、まっすぐに目的地へ向かって飛んでいった。
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