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そんな様子を横目で見ながら、悠人は軽く冗談めかして言う。
「澪に断られたら、僕は一生独身かな」
「そ……そんなの……なん、で……」
澪の混乱した気持ちは言葉にならなかった。腹立たしいような、悔しいような、困惑したような、それでいて胸を締めつけられるような思いが、胸の中で大きくうねりながら渦巻いている。
「寂しいっていうのは本当だよ」
赤信号で車が止まる。
悠人はハンドルから手を離して振り向いた。無言で澪と視線を絡ませる。そして、おもむろに腕を上げると、助手席の背もたれに手を掛け、ゆっくりと澪に顔を近づけてきた。
頭の中は真っ白だった。
手からミネラルウォーターのペットボトルが滑り落ちる。現実から逃れるように、体をこわばらせて震える瞼をぎゅっと閉じる。それでも、すぐ近くまで悠人の顔が近づいてきたのがわかった。微かな吐息が鼻に掛かる。そして--。
「イタっ!」
額に軽い痛みが走った。反射的に額を押さえて目を開く。
「わかった? 自分が流されやすいってこと」
いつのまにか、悠人はハンドルを握ってくすくすと笑っていた。
どうやら指で額を弾かれたらしい。今の今までずっとからかわれていたのだと、澪はそのときようやく気がついた。カッと頭に血を上らせたものの、強気に言い返すこともできず、横目で睨みながら口をとがらせる。
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