6. 白い研究所

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「はっ!」  顔面に向けて繰り出された遥の拳を、澪は左の手のひらで防いだ。そこに感じる重量感に思わず顔をしかめる。先ほどから何度も受けているせいか、痛みというより、むしろ痺れの方が強くなっていた。  一瞬、遥の攻撃が途切れる。  その隙に、澪は素早く腰を落として足払いをした。だが、その攻撃は読まれていたようで、事も無げにかわされてしまう。それどころか逆に肩を蹴りつけられ、受け身も間に合わず、背中から地面に強く叩き付けられた。  澪はゲホッと咳き込む。  それでも遥は容赦なく澪の上に馬乗りになると、反撃しかけた澪の右手をねじ伏せ、力のこもった固い拳を大きく振りかざした。そして、澪に向かって躊躇なくそれを振り下ろす。  --ピッ!  薄青色の空を突き抜けるように、高らかに笛が鳴った。 「遥の一本」  縁側で二人を見ていた悠人は、銀の笛を片手に判定を下した。  澪の鼻先でピタリと止まった拳が引いていった。遥は先に立ち上がると、仰向けの澪に手を差し伸べる。蹴りつけられた肩に痛みを感じながらも、澪はその手を取り、軽く跳ねるようにして立ち上がった。 「1勝3敗1分けかぁ」  両手を腰に当て、悔しさを滲ませながら言う。 「最近、遥の拳や蹴りが強くなってきたみたい」 「男女の身体能力差が出てきたんだろうね。今まで大差なかったのが不思議なくらいだよ。悔しく思う気持ちはわかるけれど、その辺は仕方ないと割り切った方がいいんじゃないかな」 「わかってるけど……」  悠人の言うことはもっともだと思うが、今までずっと互角にやってきただけに、置いていかれた寂しさのようなものを感じる。頭ではわかっていても、感情としては、すぐに受け入れることが出来ないのだ。 「差をつけられたくないんだったら、遥以上にトレーニングを頑張ること」 「ですよね……」  現実としてはそうするしかないだろう。もちろん遥も今までどおりトレーニングを続けるわけで、澪が少しばかり頑張ってみたところで、再び追いつくことは出来ないかもしれない。だからといって、努力しなければ置いていかれる一方である。
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