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ドォン!!
耳をつんざくような轟音とともに、硬いはずの甲板が激しく波打った。
大地の体は弾かれるように宙を舞い、視界は大きくぶれ、天も地もわからなくなった。反射的に鉄の柵のようなものを掴んでぶら下がったが、それも今にも外れそうになっている。体に容赦なくしぶきが叩きつけられた。
「美咲ーーーっ!!」
何ひとつ状況の掴めないまま、どこにいるかわからない彼女の無事を確かめるべく、あたりを見まわしながら必死に名前を叫んだ。しかし、返答はなく、姿も見当たらない。聞こえてくるのは船の悲鳴と荒れ狂う波の音だけである。
「うわっ!!」
大地の体が大きく旋回すると、とうとう掴んでいた鉄柵が外れ、遠心力で勢いよく弾き飛ばされた。叩きつけられるように海に落ちる。その痛みであやうく失神しかけたが、何とか意識を保ち、海流のうねりに揉まれながら海面に浮上して顔を出した。
そのとき、少し離れたところに白い布が浮かんでいるのが見えた。
大地はそれが美咲だと確信した。
海水を吸った服が重たく纏わりつき、思ったように体が動かせず、焦る気持ちとは裏腹になかなか進まない。それでも、何とか彼女のもとまで泳ぎ着くと、背後から小さな体を抱きかかえて起こす。
「美咲っ!」
「ゲホッ」
美咲はむせながら水を吐くと、苦しげに荒い息をしながら振り返り、うつろな目でぼんやりと大地を見た。潤んだ漆黒の瞳は、不安と恐怖に彩られている。それでも、彼女が生きていたことに、辛うじて意識があることに、大地は全身の力が抜けそうなほど安堵した。冷たい海に浮かんだまま、彼女の体をぎゅっと抱きしめる。
しかし安心できる状況ではない。
いつまでも、海の中に浮かんでいるわけにはいかないのだ。どこか陸のあるところまで泳いでいくか、通りがかりの船に助けてもらうしかない。けれども、まわりには水平線が広がるばかりで、目印になるものなど何もない。自分たちの乗ってきたあの船以外には--。
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