0. 光の魔神

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 おそるおそる、轟音の鳴りやまないその方に目を向ける。  そこあったのは、海を割き天を貫く巨大な光柱により、おもちゃのようにあっけなく真っ二つに割られた船だった。片方は船首を上に向けて沈みかけ、もう片方は強烈な光によってバラバラに崩されていく。破片や人がゴミのように落ちていくのが見える。穏やかな青空と海の中で、そこだけが異空間のように地獄絵図が映し出されていた。  現実とは思えない光景。けれど、紛れもない現実。  今まで何が起こったのかさえ理解できずにいたが、離れたところから状況を見ても、やはりわからないままだった。常識では処理しきれないことが目の前で起きているのだ。大地の瞳には、光の魔神が雄叫びを上げ、怒りまかせに暴れ狂っているかのように映った。  腕の中の美咲がぶるりと震えた。  その感覚で大地ははっと我にかえる。とりあえず、出来るだけ船から離れなければならない。あの光がいつ自分たちの方に襲い来るかわからないし、そうでなくとも沈没時の渦に巻き込まれる危険もある。大地は凄惨な現場に背を向けると、美咲を抱えて必死に泳ぎ出した。  ドォン--。  縦になっていた船体が爆発し、炎と黒煙を上げながら海面に倒れ込んだ。真っ白な水しぶきとともに大きな波が起こる。それは生き物のようにうねりながら、大地たちに襲いかかった。 「美咲っ!」  大地は高波に背を向けて、美咲を庇うように頭から抱き込む。しかし、それはほとんど意味をなさないことだった。高波はいとも簡単に二人をまるごと飲み込んでしまう。激しい水流に揉まれて引き裂かれそうになった。それでも、美咲と離ればなれにならないよう、彼女を抱く腕に死にものぐるいで力を込めた。
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