1. 怪盗ファントム

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「17歳か……」  剛三は肘掛けに両腕を置き、革張りの椅子に体重を預けると、遠くを見やりながら感慨深げに呟いた。そして、後ろに控えていた秘書の楠 悠人(くすのき ゆうと)に振り向いて口もとを上げる。 「とうとうこの日が来たな」 「ええ、準備は万端です」  そんな意味ありげな会話を交わすと、剛三はすぐさま澪たちに向き直った。怖いくらい真剣な眼差しで見据えながら、静かに重々しく切り出す。 「他言無用の大切な話だ。心して聞いてほしい」  16歳の誕生日のときには、似たような前置きのあとで、株式投資を始めろという話をされた。今回も、社会人としての勉強になる何かを始めさせるつもりなのだろう。やっかいなことでなければいいけれど--澪は心の中で願った。  しかし、続く剛三の言葉によって、その願いは儚くも打ち砕かれる。 「今日からおまえたちは怪盗になるのだ!」 「……かいとう?」  澪と遥はきょとんとして顔を見合わせた。いきなりこんな突拍子もないことを言われて、驚かない人間などそうはいないだろう。普段はあまり感情を表に出さない遥でさえも、困惑したような複雑な表情を見せている。 「それって演劇の話? それとも仮装パーティ?」 「いやいや、仮装などではなく本物の怪盗だよ」  剛三は軽く笑いながら答えた。 「おまえたちは知らんだろうが、我が橘家が代々やってきたことなのだ」 「うそ……」  唖然とした澪の口から小さな言葉がこぼれ落ちた。その反応を愉しむかのように、剛三はニコニコとしながら、執務机で両手を組み合わせて説明を続ける。 「盗むといっても利益を得るためではないぞ。我々がターゲットとするのは、そこに籠められている思いを踏みにじられた不遇の絵画のみ。つまりは絵の尊厳を守るということだな」 「もしかして、怪盗ファントム?」  遥は顎に手を添え、ぽつりと言う。  それを聞いた剛三は、満面の笑みを浮かべて、誇らしげに大きく頷いた。 「よくわかったな。さすがは遥」 「何、そのファントムって?」  澪は瞬きをしながら、隣の遥に振り向いて尋ねる。
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