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「おじいさま、怪盗なんて馬鹿げたこと、本当にやめません?」
「遥ひとりでは何かと危険なのだがのう」
剛三は、澪の言葉に耳を貸すどころか、とぼけた口調でそんなことを言う。そうやって澪の弱点をつくことで、ファントムに引き入れようとしていることは明らかだった。
「二人であれば使える様々なトリックも、一人では不可能だからな」
「怪盗ファントムをやめてしまえば、万事解決するじゃないですか」
その声には露骨に苛立ちが滲んだ。
剛三はわざとらしく大きく溜息をつき、遥に目を向ける。
「すまんな遥、聞き分けのない薄情な妹を持ったと諦めて、大変だろうが一人で頑張ってくれぬか。澪さえ協力してくれれば、遥の負担も減るのだがのう。いや、実に残念だ。澪はせめて遥の無事を祈っていてくれないか」
「わ、わかったわよ……私もやる……」
不本意ながら、澪は追いつめられてしまい、そう答えるしかなくなっていた。せめてもの抵抗とばかりに、じとりと横目を向けて祖父を睨む。しかし、彼は少しも動じることなく、わははと豪快な笑い声を響かせた。
「よし、怪盗ファントム再始動だな!」
剛三は執務机にバンと両手をついて勢いよく立ち上がる。そして、修羅場をかいくぐってきたことを窺わせるような凄みのある顔で、不敵にニッと白い歯を見せた。
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