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不意に、澪のポケットの中で携帯電話が震えた。
パールホワイトのそれを取り出し、背面のディスプレイを確認すると、澪はパッと大きく顔を輝かせた。折り畳まれた本体を急いで開き、通話ボタンを押して耳にあてがう。
「もしもし、誠一?」
『ああ……澪、いま家にいるのか?』
「うん、いるけどどうしたの?」
『今から少しだけ会えないか?』
「いいよ、どこへ行けばいいの?」
『今、澪の家の前まで来てる』
「ホント? じゃあ今から行くね。待ってて」
澪は逸る気持ちを胸にそう声を弾ませると、携帯電話を切った。二つ折りにしてポケットに戻しながら、遥に向き直り、すぐ下の玄関ホールを小さく指さす。
「誠一が来てるから行ってくるね」
「その格好で?」
二人ともまだ祖父のプレゼントを身に付けたままだった。つまり、澪はパーティドレスを着ているのである。しかし、そのことを忘れているわけではなかった。
「家の前で会うだけだから平気よ。せっかくだから誠一にも見せたいんだもん」
えへへと笑って、その場でくるりと一回転する。レースをあしらったアンシンメトリーの裾が、風をはらんでふわりと華やかに舞った。しかし、そんな上機嫌な澪に、遥は無表情で冷や水を浴びせかける。
「別れた方がいいんじゃない?」
「えっ?」
「刑事なんだよね?」
遥の言いたいことはわかった。怪盗である澪と、刑事である誠一??つまり、敵対する立場の二人が付き合うのは、何かと問題があるということだろう。
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