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「誠一!」
澪は屋敷横の細道に回り込むと、弾けんばかりの笑顔を見せながら、煉瓦塀にもたれかかる誠一に駆け寄った。名を呼ばれて振り向いた誠一は、澪の姿を瞳に映すなり、驚いたようにその目を大きく見開く。
「澪、どうしたんだその格好……」
「おじいさまからのプレゼント。どうかな?」
澪はドレスの裾を軽く持ち上げ、踊るようにくるりとまわった。それと同時に、橘家の敷地内からせり出している大きな木が、頭上でさわさわと音を立てた。誠一は目を細めて微笑み、ジャケットの内側に手を入れながら言う。
「よく似合ってるよ。ちょうど良かった」
「えっ? ちょうど良かったって、何が?」
「澪、お誕生日おめでとう」
懐から出された手には、プレゼント用にラッピングされた細長い箱が握られていた。薄いピンク色を基調とした包装紙に、白のリボンが掛けられている。澪の顔はパァッと輝いた。
「わぁ、ありがとう! 開けてもいい?!」
「もちろん」
誠一は小さく笑ってそう答えた。
澪は胸を高鳴らせながら、出来るだけ丁寧にリボンを外し、包装紙を剥がし、横開きの箱をそっと開いた。そこには、淡いピンク色の上品な輝きがあった。シンプルで控えめな、それでいて上質な存在感を放つペンダントである。
「あ、かわいい! ピンクダイヤ?」
「よくわかったな」
誠一は感心したように言った。
しかし、澪が言い当てたのは偶然のようなものである。母親が似たようなピンクダイヤのペンダントを持っていたので、そうではないかと思っただけで、特に宝石に詳しいというわけではないのだ。それでも、ピンクダイヤが安いものでないことくらいは知っている。
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