2. 不条理な要求

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 それは、今から一年半ほど前のことである。  誠一と岩松警部補は、職務で聞き込みにまわっているときに、別の殺人容疑で指名手配されている男を見つけ、二人だけで彼を追いつめて手錠を掛けた。犯人を見つけられたのは、誠一の記憶力と観察力があったからこそで、このことに関しては大手柄といって差し支えないだろう。  問題はその後だった。  岩松警部補が本部に連絡を入れている間に、あろうことか気の緩んだ隙を突かれ、誠一は犯人に殴り倒された挙げ句に逃げられてしまったのだ。暴走した犯人は、手錠で両手首を繋がれたまま、隠し持っていたナイフを振りかざし、たまたま通りかかった当時中学生の澪に襲いかかる。が、澪は逆にその男を投げ飛ばし、地面にねじ伏せ、鮮やかな手並みで取り押さえたのだった。  それが、澪との最初の出会いである。  彼女のおかげで、一人の怪我人も出さずに事なきを得た。が、岩松警部補の言うように、そこにいたのが武術の心得のない人間だったら、最悪の事態になっていたかもしれない。そうなれば、誠一も刑事ではいられなかっただろう。つまり、誠一にとって澪は、恋人であると同時に恩人でもあるのだ。
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