238人が本棚に入れています
本棚に追加
美咲は一応は素直に頷きつつも、もぞもぞと反論したそうな様子を見せていた。大地はそのことに気づいていたが、あえて無視して言葉を繋ぐ。
「それに、今晩はお楽しみもあるしね」
「お楽しみって?」
「それはまだ秘密」
美咲は口をとがらせた。
「じゃあ、船内を探検して、それからお昼寝じゃダメ?」
おねだりするようにそう言うと、漆黒の瞳をまっすぐに向けて、ちょこんと首を傾げて見せる。こんな顔をされては降伏せざるをえない。敵わないな、と大地は胸の内で密かに苦笑した。
「わかったよ」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
美咲はパッと顔を輝かせると、ベッドに寝そべる大地に飛び込んで抱きついた。幸せな重みを感じながら、大地は彼女と目を見合わせ、絹糸のようななめらかな黒髪を指に絡めて慈しむ。
外では大きく汽笛が鳴り、ゆっくりと船が動き出した。
最初のコメントを投稿しよう!