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「どうです? なかなかのものでしょう、溝端さん」
「これは……妻と息子にも見せてやりたいですな」
扉を開けて外に出たところで、男性二人が夜空を仰ぎ見ながら会話していた。まだそれほど遅い時間でもないためか、甲板には他にもちらほらと人の姿が見える。おそらく、その多くが同じ目的で来ているのだろう。
大地は手すりに両手を掛けた。
夜の大海は空よりも暗くて黒く、まるで深い闇が広がっているかのようだった。じっと見ていると引きずり込まれそうな、そんな恐ろしささえ感じる。しかし、その上空には--。
「見てごらん」
眠い目をこする美咲の頭にぽんと手を置き、大地はもう一方の手で空を指し示した。言われるまま、美咲はその指を追ってぼんやりと顔を上げる。しかし、その表情はみるみるうちに輝いていった。
「わぁ……」
彼女の大きな漆黒の瞳には、たくさんの目映い輝きが映っていた。
「すごい、こんなに星があるなんて……」
「本土と違って空気がきれいだし、まわりに光もほとんどないからね」
どこまでも続く紺色の空に、無数の星が散りばめられている。数えることなどとてもできない。それは、まるでおとぎ話に出てくる天の川そのものである。隣に視線を移すと、小さな口を半開きにした美咲が、ただただじっとその星空を見つめていた。
「美咲は覚えてる? 僕たちが初めて出会った日のことを」
「うん、ここまでじゃないけど、星のきれいな夜だった」
美咲は空に目を向けたまま返事をした。
大地はふっと表情を緩め、美咲を柔らかく懐へ引き入れた。そのまま何も言わず、二人でゆったりと同じ星空を仰ぎ見る。まるで、広大な濃紺色のキャンバスに煌めく星々を、余すことなく目に焼き付けようとするかのように--。
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