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それから、どれくらいの時間が過ぎただろう。
大地たちのまわりから人影がなくなった。声もしなくなった。耳に届くのは、船のエンジン音と波を掻き分ける音くらいである。この広い世界にたった二人きり、そんなありえない幻想さえ抱きそうになる。
大地は小さく呼吸をしてから口を開いた。
「美咲、僕はね、君を一目見たときから決めていたんだ」
そう静かに語りかける大地の胸に、美咲はふらりと背中からもたれかかった。空を映した漆黒の瞳がそっと閉じられる。彼女の耳に届いているかわからないが、それでも大地は優しく抱きしめ語りかけていく。やがて、話の終わらないうちに、彼女は大地の腕の中で小さく寝息を立て始めた。
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