4人が本棚に入れています
本棚に追加
・・でも、僕の期待とは裏腹に、何事も無く時聞が過ぎ去る。
父さんはカチャカチャと上品な音を立てながら母さんの手料理を食していく。
せっかくの特別な日だというのに口数がやけに少ない気がするなあ。
興奮を隠すのに必死な僕は父さんの物静かな態度にちょっとやきもきしてしまう。
でも、こんな時こそ僕は落ち着いてないといけないんだ。
特別な親子としての使命を果たすために、僕は父さんのやる事に従わないといけない。
これは誰にも逆らうことのできない、絶対的な"ルール"なんだから。
結局なんの音沙汰もないまま、時刻は1 2 時になろうとしていた。
なんだ、つまんない、ちっとも変わったことなんて起こりそうにないじゃん。
さっきまで体中に溢れていたワクワクの予感もちょっとずつ冷めてきた感じがするよ。
ひょっとして1 0 歳になっても僕は今まで通り、ひ弱な子供のまんまなのかな?
僕はふたたび心配になってきた。
このまま特別な日が期待はずれで終わっちゃったらどうしよう。
そんな不安が僕の心を覆い始めたその時、突然父さんが沈黙を破ったんだ。
「さあて、お前にこの世界の秘密を教えてやるか」
父さんはささやくようにそう言ったんだ。
大好物の鶏肉のソテーを口に運ぶ途中だった僕は、
フォークを持った手を休めて父さんの方に目を向ける。
窓から差し込む月明かりは不気味に揺らめきながら、
満足げな表情で微笑む父さんの横顔を照らしていた。
父さんが発した言葉の意味をようやく飲み込み始めると同時に、
僕の全身にさっきまでの高ぶりとワクワク感が舞い戻ってきた。
そうか、そういうことなんだね。
僕はこれから父さんの仕事に仲間入りすることができるんだね。
父さんが普段何をやっているのか、
僕はあんまり知る由も無かったし、父さんも詳しく教えてはくれなかった。
でも、僕にはなんとなく分かつていたんだ。
それがどうしてかは知らないけれど、世界は父さんの思う通りに動いているんだ。
最初のコメントを投稿しよう!