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「ッ!!!」
急いで瞼を開くと、もう見慣れてしまった天井が視界を占めた。外からはうるさいくらいの蝉の合唱が轟く勢いで部屋にまで聞こえてくる。
「夢か……」
懐かしい夢を見てしまった。いや、この場合は夢というより記憶か。
「いつのことだっけ?」
あいつとの別れの日。たしか俺はあいつを見送りに施設に行ったんだ。
迎えに来た人はとても優しそうな夫婦で安心した。寂しさも込み上げてきたが、あいつが幸せになるんだったら我慢できた。
それに、あいつは約束した。必ず帰ってくると。
だから俺は笑顔であいつを見送ることができたんだ。あいつも涙は見せなかったし、最後まで笑ってた。
「はぁ……んッ!!」
ひとつため息をついて体を伸ばした。
「よしっ!!」
両頬を軽く叩いて気合いを入れ、勢いよくベッドから飛び降りた。
なんたって今日はクラス対抗親善試合二回戦の日だ。少なからず鍛練してきた成果を発揮しなければ。
「さてさて、準備を始めるか!」
ふとベッドの近くに配置されている小机の上の目覚まし時計に目を向けた。
やる気は一転、絶望へと変わる。
「は、八時二十五分!?」
たしか集合時間は八時半だったはず。完全に遅刻だ。
電光石火の勢いで準備を済ませる。途中、角で右足小指をぶつけたりして悶絶したが時間がないため引きずりながら準備を続けた。
あと二分。間に合わないのは確実だが、せめてぎりぎりアウトに抑えたい。
朝ごはんなんて食べずに部屋を飛び出し、闘技場目指して走った。
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